創作読物68「親も学校の力を当てにする」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「でも…、

 体罰の問題は、

 私が教師になる前のことから話したほうがいいかな。」

「え?

 どういうことですか?」

「うん。

 実は私は、大学生の時に、学習塾で講師のアルバイトしてたんだよ。」

「そうですか…。

 僕もやってましたよ。

 教師目指してたんで、教えることのトレーニングになるかなと思って。

 でも、僕のやってたところは、少人数制を売りにしてたから、

 家庭教師に毛の生えたようなものだったですけどね(笑)。」

「そうなんだ。

 私のは、1クラス20名近い、クラス単位の塾で、

 確か、小学校3年生から、中学校3年生の幅で、

 学年ごとにクラス編成してたかな。

 その後、高校生のクラスもできたんだけど…。」

「じゃあ、そこそこ大きな塾だったんですね。

 進学塾だったんですか?」

「いや、どちらかというと、補習を売りにしてたかな。

 なので、生徒の学力も、進学先もいろいろだったね。

 経済的には、公立校に入れれば御の字、っていう家庭が多かったかな。」

「先生が学生時代っていうと、

 ちょうどいろんな学習塾がたくさんできた時代ですかね?」

「そうだね。

 いわゆる乱塾時代に突入してたね。

 なので、過当競争と言うか…、

 それぞれの塾が独自路線と言うか、

 売りを考えて、広報してたかな。」

「先生のバイト先の塾は、

 どんなことを売りにしてたんですか?」

「うん。

 もちろん、学力保証は外せないけど…、

 塾でもちゃんと、しつけをしますっていうところかな。

 敢えて言えば。」

「しつけですか?」

「うん。

 当時は、校内暴力とか、学校の荒れもよくニュースと言うか、

 話題にもなってたからかもね。」

「なるほど。

 親としては、学力だけでなく、

 子どもが反抗したり、グレたりするってことも、

 心配だったんですかね。」

「そうかもしれないね。

 で、私の塾では…、

 なんと体罰も容認してたんだよ。」

「え?

 容認て、誰にですか?」

「我々講師たちにね。」

「え?

 まさか…。

 今だったら、大問題になるでしょ。」

「だね(笑)。

 でも、当時は、塾長の方針で、

 しつけの名の下に、子どもがいけないことした時には、

 遠慮なく体罰するということを、入塾の時に親にも話して、

 そのうえで、入ってもらってたみたいだね。」

「みたいだね、ってのは…?」

「ああ、

 講師たちは、教えるだけで、

 そうした入塾手続きのような事務的なことにはノータッチだったから。」

「あ、そういうことですね。

 でも、それでも、生徒は増えてたんですか?」

「うん。

 なんでも、その塾は、近くに前からあった別の塾から、

 講師たちが分裂・独立したらしいんだけど、

 そういう方針を打ち出すことで、

 前の塾に通ってた生徒も、だいぶ鞍替えしたらしいんだ。

 私が講師になったのは、そういったゴタゴタが一段落した後だったけどね。」

「なんか…、

 そういう時代だったんですかねぇ…。

 あ、いや、そういう時代ってのは、つまり…、

 親が、敢えて体罰容認の塾に入れるって、

 なんか、ちょっと理解しにくい、と言うか…。」

「まあ、平井先生の世代からすれば、そうだろね。

 でもね。

 まあ、今でもその傾向は多分にあると思うんだけど…、

 つまり、親の中には、学校とか、教師の権威と言うか、

 力を借りると言うか、頼りにしてる面は、やはり、あるんだよね。」

「なるほど。

 そう言えば、先日も、うちの学校のある保護者が、

 うちの子が、バイクに狂ってしまって、どうしようもない。

 先生、なんとか言ってやってくださいって、

 親子面談の時に言う親が居て、困ったよ、

 と言ってた先生が居ましたね。」

「そうでしょ?

 そういう、何と言うか、

 本来なら、保護者が毅然とした態度を示さなきゃいけないんだろうけど、

 それができないと言うか、それをしても、子どもが全然聞かないと言うか…。」

「親の権威が失墜して来てるってことなんですかね?」

「それもあるだろうけど…、

 とにかく、日本の学校の場合は、

 学習面のケアだけでなく、生徒指導と言うか、

 生徒個々の生活指導もしてるんで…、

 結局、親も学校の力を当てにするということになるんだろうね。

 大なり小なり。」

「こういう体制って、

 変わらないんですかねぇ。

 なんか、働き方改革なんて言ったって、

 これじゃ、ますます忙しくなる一方ですよね。」

「うん。

 ただ、教員の中にも、

 生徒指導に生きがい感じてる人もいるでしょ?」

「え?

 あ、まあ、そう言われてみれば、

 そういう人もないわけではないですね。」

「だから、

 これって…、

 意識改革なのか、システム改革なのか、って問題かもね。

 もちろん、両方が必要なんだけど…。」

「難しい問題ですね。」

「まあ、これについては、またの機会にするとして…。」

「あ、そうそう。

 で、その塾の話でしたね。

 そのう、

 子どもがいけないことした時には、遠慮なく体罰する、

 ていうことですけど、具体的にはどんな時に、

 どんな体罰が行われたんですか?」

 

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