創作読物100「人生とは、到達することではない。倒れるたびに起き上がることだ」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「世界で一番貧しい国の大統領じゃなくて、
大統領自身が貧しいんですか?」
「うん、そう言われてるんだよね。
ウルグアイの元大統領のホセ・ムヒカという人なんだけど。」
「ウルグアイ…、ですか?」
「そう、ウルグアイ。
知ってる?どこにあるか(笑)。」
「えー。
どこですか?」
「南米ね。
ブラジルとアルゼンチンに挟まれた所にある、小国だけど、
牧畜が盛んな国だね。」
「貧しい国なんですか?」
「いや、そんなことはなくて、
生活水準は安定してるみたいだよ。」
「じゃあ、そのムヒカ…?大統領は、
なんで世界一貧しい大統領なんですか?」
「うん。
日本の政治家をイメージしちゃうと、
ちょっと信じられないんだけど、
たとえば、給料の大半を貧しい人のために寄付したり、
大統領の公邸には住まずに、町から離れた農場に、
奥さんと一緒に花や野菜を作って暮らしたり、
運転手付きの立派な車には乗らずに、身なりも構わないで、
自分でオンボロ車を運転して、大統領の仕事をしに行ったりね。」
「へー。
そんな大統領が居るんですね。」
「うん。
だから、ウルグアイの国民からは、
ぺぺと呼ばれて、愛されていたみたいだね。」
「そうですか。
でも、ムヒカ大統領は、どうしてそういうことをしてるんですか?」
「彼は、浪費とか、無駄遣いってことを、
ほんとに排除しようとしてるんだね。
行き過ぎた消費経済を敵視してるというか…。」
「消費経済…、ですか?」
「彼が、世界中で知られるようになったのは、
2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた、
地球環境を考える国際会議でのスピーチだったんだよ。」
「どんな内容だったんですか?」
「うん。
これ、今でも検索すれば出てくるから、
後で見てみるといいよ。とってもインパクトがあるんで。」
「ええ。」
「で、彼自身の言葉ではなくて、引用なんだけど、
貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、
無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ、ってね。」
「…。
なんか、ガーンと来ますね。」
「でしょう?
これ以外にも、考えさせられる言葉のオンパレードで、
スピーチの最中から、会場がシーンと静まりかえって、
演説が終わった途端に、会場中が大拍手したんだよね。」
「ぜひ、見てみたいです。」
「うん、見てみて。
ムヒカさんは、日本にもやってきて、
学生向けに、スピーチもしてるんで、
これも検索すれば、あるんじゃないかな。」
「わかりました。」
「ただ、最近、ムヒカさんが議員を引退したというニュースが入ったね。」
「そうなんですか。」
「彼は、そのリオでのスピーチだけでなくて、
いろいろといいこと、というか含蓄のあることを言ってるんだよね。」
「たとえば、どんなことですか?」
「そうだねぇ…、たとえば、
人生とは、到達することではない。
倒れるたびに起き上がることだ、とかね。」
「うーん…。」
「陽香さんには、まだイメージできないかな?」
「あ、いや…、
そんなことはないんですけど…。
それって、目標を持つな、ってことですか?」
「あ、いや、
それとは違うね。
目標とか、目的は、もちろん持ったほうがいいんだけど、
その目標に到達したり、目的を達成することが全てじゃない、と言うか…。
もし、それが全てだとしたら…、
それこそ挫折した人は敗者になっちゃうでしょ。」
「最近、よく言われる、負け組とかですか?
私は、そういう表現、あんまり好きじゃないんですけど…。」
「だね。
世の中の人を、勝ち組か負け組か、と選別するのもおかしいよね。
ムヒカ大統領は、目標に向かうプロセスで、
人って、いろんな壁にぶち当たると言うか、
つまり、いわゆる挫折をするでしょ。
でも、そこで、めげたり、諦めるんではなくて、
七転び八起きして、生きていくのが、人生なんだって。」
「なるほどぉ。
でも、なんか今、日本では、
勝ち組が負け組を余計に蹴落とすと言うか…、
弱肉強食って言うか、強い者、権力を持ってる者が絶対って感じで、
とっても、生き難いって言うか、嫌な世の中ですよね。」
「だから、日本人にこそ、
ムヒカ大統領の言葉は、響くんじゃない?」
「そうですね、確かに。」
「あがく、ってことで言えば、
目標達成のためにあがいて、場合によっては、
仲間や友達を蹴落としても構わない、って生き方、あがき方よりも、
挫折から再起するために、必死にあがく、ってほうが、
ほんとはカッコいいんだ、尊いんだ、って言う考え方が、
大事と言うか、今、もっと広まっていいんじゃないかと、思うけどね。」
「ほんとですねぇ。
そういうあがき方をしてる人は、
きっと、同じように挫折してる人を、勇気づけたり、
助けたりすることも、きっとできますよね。」
「うん、そうだと思う。
たぶん、昔の日本は、そういう国と言うか、
そういうふうな人が多い国だったような気がするけど、
やはり、エコノミックアニマルなんて、言われ出してから、
何かがおかしくなっちゃったのかねぇ。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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