創作読物115「結局、チームワークが崩れた」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「先生…。」

「うん?」

「あのぅ…、

 私、中学生の時に…、

 ある、嫌なことがあって、

 それから、不登校になって…。」

「うん。

 そうみたいだね。」

「ええ。

 ただ、これまでは、その嫌なことを思い出したくないので、

 そのことを正直に誰にも話せなかったし、

 友達とも、だんだん連絡もしなくなって…。」

「うん。」

「つまり、

 自分自身、そのことを消化できていなかったんですね、きっと。

 でもね、

 先生と会って、いろんなことを話したり、聞いたりしてるうちに、

 なんか、だんだん、どうでもよくなってきた、と言うか。

 ああ、もちろん、いい意味でですよ。

 あんまり、大したことじゃないんじゃないかなって、思えてきて。

 いや、そのこと自体は、大したことなんだと思うんですけど…。

 やだ…、私、何言ってんだろ。」

「ああ、わかるよ。

 それを、いつまでも引きずってることが、

 意味ないと思えて来たってことでしょ?」

「ええ、そうなんです。

 正直、今日ここに来るまでは、

 まだ、そのことを話すのに、躊躇というか、

 ためらいがあったんですけど、

 今は、もう、淡々と話せる気がしてきて。」

「そっかぁ。

 じゃあ、私も淡々と聞こうか(笑)。」

「ええ(笑)。

 お願いします。」

「うん。

 話しやすいところからで、いいからね。」

「ええ、ありがとうございます。

 でも、一応、順番に話すと…。

 私、中学の時に、バスケットボール部だったんです。」

「ほう。

 で、ポジションは何だったの?」

「ポイントガードって、わかります?」

「うーん。

 あ、そうだ、

 スラムダンクで言うと、誰?」

「ああ、

 先生もスラムダンクファンだったんですか?」

「あ、まあそうだね。

 だって、あれ、ついつい見ちゃうでしょ?

    息子が全巻、古本屋で買ってきてね。」

「すごい!」 

「それから、テレビでも見たし。」

「今でも、時々再放送してますよね。」

「うん。

 でも、見ちゃうね(笑)。」

「ふふ(笑)。

 湘北で言えば、宮城ですね、

 ポイントガードは。」

「おう、そっか。

 宮城リョータね。」

「私は、あんまり背が高くなかった、と言うか、

 チームの中では小柄だったので。」

「でも、ポイントガードって、

 ドリブルがうまくないとダメなんでしょ?」

「そうですね。

 私、こう見えても、すばしっこかったんで(笑)。」

「いや、運動神経だけじゃなくて、

 頭もよくないと、ポイントガードは、務まんないでしょ。」

「うーん。

 頭がいいかどうかは、わからないけど、

 2年生の時から、レギュラーだったんですよ。」

「すごいね。

 だって、司令塔だよね。」

「ポイントガードは、

 一応、コート上のコーチとか、

 監督とか、言われてますからね。」

「うん、うん。

 藤間とか、牧伸二とかだよね。」

「牧伸二?」

「そう。

 あの、あ~あ、やんなっちゃった、の人と同じ名前の。」

「?」

「?」

「牧紳一ですよね?

 海南大附属のポイントガードは。」

「え?

 あれ?そうだっけ…。

 ウクレレ漫談の牧伸二と同じ名前だと思ってた(笑)。」

「誰?ですか?その人。」

「あ、いや、そのぅ…。

 でも、ダメだね、私が話の腰を折っちゃうと。」

「あ、いいんです。

 そのほうが、私も気軽に話せそうなんで(笑)。」

「そう?

 でも、とにかく、2年生で司令塔になるなんて、

 陽香さんはうまかったんだね、バスケが。」

「私が、と言うより、

 私の一年先輩たちが、結構強くて、

 ただ、ポイントガードの先輩が、

 練習で膝を怪我しちゃってから、

 私が、ピンチヒッターで出るようになって…。」

「そうなんだ。」

「で、

 その、嫌なことって言うのは、

 あと一試合勝てば、関東大会に行けるって試合で、

 1点を争う展開だったんですけど、

 大事なところで、センターを守ってた先輩が、

 4つ目のファウルを犯しちゃって…。

 交代せざるを得なくなって…。」

「そう…。

 で、負けちゃったわけね。」

「ええ。

 結局、チームワークが崩れた、と言うか…。

 立て続けに失点しちゃって…。」

「そうなんだ。」

 

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