あの日、あの時、あの場から~人生は出逢いで決まる⑫~

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死んでからの医者話

いよいよ文化祭当日。

 

「授業」上演の数分前・・・。

舞台の袖から、カーテン越しに客席を見ると・・・、

文化祭ということで、同じ時間帯に数多くの催しや発表等が

同時並行で行われている割には、

そこそこの数の観客が体育館に足を運んでくれていました。

 

緊張の中にも、稽古はやれるだけのことはやった、との自負もあり、

そう上がるということもなく・・・、

やがて幕が開き、劇は静かに始まっていきました・・・。

 

後半に入り、

教授の異常さがじわじわと、しかし確実に速度を増して発揮されるにつれ、

観客たちも次第に舞台に惹きつけられていく・・・、

(ように演じている私には感じられました。)

 

そして、ややあって、“その時”がやって来ました。

 

実は、劇の中で激した教授が、ナイフを女生徒の顔に近づけ、

眼を突き刺すようなしぐさをする場面があったのです。

その直後に女生徒は、

「歯が痛い!」という台詞と台詞の間に、

一回だけ「眼が痛い!」と叫ぶのです。

(これは、アドリブではなく、台本どおりの展開です)

 

肝心の本番でその台詞を聞いた時、

私は、こともあろうに一瞬、ふと我に返り、

自分の眼のことに気を奪われてしまったのです。

「あっ!いけね!」と思った時すでに遅く、

なんと私は次に続く自分の台詞を、度忘れしてしまったのです!!!

 

焦りました・・・。

仕方なく私は、とりあえず女生徒の周りをウロウロしながら時間を稼ぎ、

必死に台詞を思い出そうとしました。

が、出てくるのは台詞ではなく、冷や汗とあぶら汗・・・。

額や脇の下から、気持ちの悪い汗がドッと噴き出てくるのを感じました・・・。

 

持っていたハンカチをビショビショにしながら、

なんとか台詞を思い出そうとする私・・・。

 

直前の台詞をまた繰り返せば、自然に出てくるのでは、と思った私は、

それを舞台の上で、実際にチャレンジしますが、

肝心なその次の台詞は出て来ず・・・、

結果、女生徒の周りをウロウロしながら、何度も同じ台詞を吐く羽目に・・・。

 

その間、舞台の下手に居たスタッフに目配せして、合図を送るも、

何が起こったのかを誰も察知してくれず・・・、

いたずらに時だけが過ぎていきました・・・。

上演中、舞台の下では、スタッフがいわゆる“カンペ”を用意していなかったのです。

膨大な台詞の量でもあったので。

孤独な独り芝居とは、まさしくこのことでした。

 

台詞を度忘れしてから、いったいどれほどの時間が経過したのでしょうか。

しかし、しばらくすると、私はなぜか妙に冷めた感じになり、

(しょうがない、一旦、舞台の下手に引っ込んで、出直そう)と、

無言のまま、スポットライトの当たる舞台を後にしました・・・。

一人、女生徒を置き去りにして。

 

今、思えば、女生徒役の女生徒も(笑)、かなり引きつったことと思います。

何しろ、自分だけ衆人環視の舞台のど真ん中に、置き去りにされたのですから。

 

止む無く一旦、下手に退場した私は、

口にすべき台詞をしっかりと確認した後、

また、ゆっくりとおもむろに舞台に戻り、

劇をリスタートさせました。

何事もなかったかのように・・・。

 

その時、私としては、なんとも不思議な感じでしたが、

観客席も、なぜか何事もなかったかのように、観劇に集中してくれたのでした。

(これは、上演後に友だちに聞いた話なのですが、

   その彼は、私が台詞を度忘れしたことには気が付かなかった、と言うのです。

   混乱した教授が、何度も同じ台詞を繰り返したり、執拗に汗をぬぐったり、

   果ては呆然として、無言のまま舞台から一旦姿を消したりしたのも、

   全て本当の演技のうちだと思っていた、とのことでした。)

 

その後、「授業」は無事に終演を迎えることができました。

大きな拍手をいただくと、それと引き換えに、ドッと疲れが襲ってきました・・・。

 

「お疲れ様!」

「よかったよ!」

「よく覚えたな、あんなセリフ!」

観客も、共演者も、裏方のスタッフも、観に来てくれた友だちも皆、

労をねぎらってくれました・・・。

 

が、私としては、とても悔いの残る結果となり、

悄然と肩を落とし、うな垂れていました。

あんなに一生懸命覚えた台詞を、肝心要の本番で度忘れするなんて!!!

「九仞の功を一簣に欠く」

「仏作って魂入れず」

「画竜点睛を欠く」

「覆水盆に返らず」

「後悔先に立たず」

「死んでからの医者話」・・・。

受験勉強なぞしてもいないのに、

ここぞとばかり口惜しいフレーズが次々と溢れ出てきました・・・。

 

文化祭が終わっても、

当初期待していた達成感と呼べるようなものを感じることはできず・・・、

 

もしかすると、この時のショックが、

その後の更なる体調不良の引き金を、

引いてしまったのかもしれません・・・。

                          (つづく)

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神奈川県立高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。

その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。

2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、良好な人間関係の構築とセルフ・コントロールを目指す選択理論心理学を学校経営の根幹に据えた、日本初のクオリティ・スクールの創設を目指す。

2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。

2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。

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