創作読物 9「負い目が逆に自信になる」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「でも、実際、開校当初は、いろんな問題が勃発というか(笑)、

 まあ、想定内外のいろんなことが起こって…、

 そうした不登校経験のある子たちに、きめ細かな配慮というか、

 目配りがちゃんとはできなかった、という反省があるんですが…。」

「そうですか…。」

「ただ、そんな時に…、

 あれはまだ、入学式が終わって、ひと月も経っていない、

 ゴールデンウイークに入る前のことだったと思うんですが…。

 教員が、いわゆる巡回ってのをやってましてね…、

 1時間の授業を全部教室で座って受ける、ということが

 いろいろな事情でできない子たちがある程度いたので、

 教員たちが、授業のない空き時間を使って、当番で巡回する

 ということをやっていたんですよ。」

「そういう子たちは、教室を抜け出して、どこに居たんですか?」

「まあ、そのまま帰っちゃう子もいたと思いますが、

 だいたいの子は、校舎内のちょっとしたスペース、ロビー

 みたいな所に一人でいたり、あるいは数人でたむろしてたりして…。」

「巡回の先生たちは、そうした子を見つけて教室に返すんですか?」

「あ、いや、それはケースバイケースでしたね。」

「え?そうなんですか?」

「ええ。」

「教室に返さないで、どうするんですか?」

「うん…。

 まあ、その子たちは、授業をサボって抜け出してる、

 といえば、それはそうなんですが…。

 もちろん、そういう子もいるんでしょうけど…、

 結局、そうすることの本当の原因は、何なのかな、と。」

「ほんとの原因?」

「ええ。

 たぶん、原因は、その子その子でいろいろだと思うんですよね。

 それを、ちゃんと聞かなかったり、無視したりして、

 問答無用で教室に戻しても、要は対症療法というか、

 その場は、しぶしぶ戻っても、結局また、繰り返すでしょ?」

「そうかもしれませんね。」

「余談ですけど、

 これってミオンパシーも一緒なんですよね。

 例えば飯塚さんの膝の痛みも、原因は他にあったじゃないですか。」

「あ、結果をもたらす原因を探して、そっちにアプローチして治さない限り、

 また時間が経てば悪くなってしまう、という考え方ですね。」

「そうそう(笑)。」

「でも、それで子どもたちは治るというか…、

 教室に戻れるようになるんですか?」

「そう簡単じゃないですよね。

 彼ら彼女らにも、そうなるまでにはそれなりの歴史がありますから(笑)。」

「歴史ですか(笑)。」

「ですから、巡回の目的は、教室に返すということが、一義的な

 ものではなくて、何というか、話し相手になるというか…。」

「話し相手ですかぁ?」

「ええ。

 そうした面持ちで対応すると、生徒たちも徐々に気を許して、

 いろんな話をし出すんですよね(笑)。」

「歴史を紐解くわけですね(笑)。

 なんか、わかる気がしますね。」

「で、ある時、

 巡回の教員が、見回っていると、ちょうど不登校経験の

 ある子たちがたむろしてるところに出くわして…。

 その子たち、そこでどんな話をしてたと思います?(笑)」

「さあ、見当もつかないですけど…。」

「なんと、そこで不登校自慢してたんですよ!」

「何ですか、それ?」

「つまり、

 A君が、自分は中3の時、ほとんど学校に行ってなかった、と言うと、

 それを聞いたB君が、いや俺は中1の時から学校なんて行ってないよ、と。

 すると、今度はちょっと距離を置いて、その話を聞いていた無口なC君が、

 何言ってんだよ!俺なんて小学校3年生の時から不登校だったんだぜ、と。

 それ聞いたA君とB君は、びっくり仰天、恐れ入りました、と(笑)。」

 「ふーん、面白い!それってすごいですね!」

「そうなんですよ!

 しかも、その時の教員が言ってましたよ、

 語り合ってる時の、その子たちの表情がすごく良かったと(笑)。」

「なんか、微笑ましいですよねぇ(笑)。」

「ええ。

 つまり、その子たちは、それまでは自分の負い目だと思っていたものを

 自分の口で、自慢げに語ることができるようになった。

 しかも、上には上がいる、ということを知って、変な話、自分なんて

 まだまだだなぁ、と気づくことができたんですよね(笑)。」

「それって、すごく面白いですね!

 なんか、負い目が逆に自信になるというか…。」

「ですよね。

 これまでのマイナス経験を…、

 少なくとも自分ではそう思っていた経験を、何というか、

 乗り越えたというか、乗り越えるきっかけを見つけた、というか…。」

「なんか、いいですねぇ。」

「そうですね。

 それから彼らには、団結心が生まれたというか、

 ちゃんと学校に来れるようになって行きましたよ。

   もちろん、遅刻とかはだいぶしたようでしたけどね(笑)。」

「そうですか…。

 陽香も、そういった友達に出会えると良かったんですけどねぇ。」

 

(つづく)

 

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