創作読物 19「親は子どものことを、見てるようで見ていない」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「陽香さんは、そういう意味では反抗期がちゃんと来てるってことですよね?」

「そうですね。

 少なくとも父親に対しては、そうですね。」

「ということは、お母さんとしてはちょっと安心ということですか?」

「ええ、まあ。

 今のお話を聞いて、ないよりは、あったほうがいいのかなぁ、とは。」

「ということは、旦那さん様様ですか(笑)?」

「いやあ、それとこれとは、って感じですけど…。

 でも、先生とお話して、陽香もその点では、まあ人並みに育ってるのかな、

 とは思いましたけど…。」

「ちょっと安心しました?」

「そうですね。」

「そうですか。

 でもね、お母さん。」

「はい。」

「ちょっと安心されたところを、水を差すようですけどね。」

「何でしょう?」

「一日24時間あるうちに、お母さんやお父さん、

 つまり、ご家族が陽香さんと接してる時間て、どのくらいですか?」

「え?

 そうですねぇ。今は陽香が学校行ってないので、

 私のほうは結構一緒にいる時間が多いですよね。」

「お母さんは、お仕事は?」

「陽香のことがあるので、今はもうパートを辞めて、まあ専業ですね。」

「そうですか。

 じゃあ、陽香さんが学校に行ってた頃は、接する時間はどうでした?」

「学校行ってた時は、そうですねぇ…、

 朝から晩まで学校だから…、えーと、大体一日12時間ぐらいですかね。」

「うん。

 でもそれは、陽香さんがお家にいた時間であって、

 お母さんと接していた時間ではないですよね?」

「あ、ええ、まあ、それはそうですけど…。」

「そうするとね、

 陽香さんも、一人で自分の部屋で過ごす時間も、当然あるわけでしょうし、

 夜寝るのも一人でしょうから、ご家族と接する時間というのは、

かなり少なくて…、

 せいぜい5、6時間あるかないか、ってところじゃないですか?」

「うん、そうかもしれませんねぇ…。

 あ、いやいや、接してる時間ていうことなら、もっともっと少ないですね。

 せいぜい3時間あるかないか、じゃないかと。」

「そうですか。

 そうすると、仮に3時間とすると、

 ご家族と接してる時間は、一日24時間のうちの、

 わずか8分の1に過ぎないってことですよね?」

「えー!

 でも、確かにそうなりますね。」

「じゃあ、夜寝てる時間を除くとすると、

 あとの時間、陽香さんはどこでどう過ごしてるんですかね?」

「そうですねぇ。

 中1の時は、学校にまだ普通に行ってた時は、

 バスケ部に入っていたので…、帰りが遅くて…。

 なのでまあ、一日のうちの大半は、学校に居たわけですよねぇ。」

「そうでしょうね。

 でもそれは、どこに居たかの答えであって、

 どう過ごしてたか、の答えではないですよね?」

「え?

 まあ、それはそうですけど…。

 学校に居るんだから、勉強したり、お友達とお話したり、

 部活やったり、ってしてたんだろうと思いますが…。」

「うん。

 だとは思うんですけど…、

 でもほんとのところは、どう過ごしてたかは、わかんないですよね?」

「ええ、それはまあ。」

「つまり、何が言いたいのかというと、

 親って…、これは飯塚さんに限らず、誰でもそうなんですが、

 自分の子ども、まあ赤ん坊の頃は別として、学校に行くようになると、

 特に大きくなればなるほど、子どもと接しているのは、

 あるいは接しられるのは、一日のうちのほんのわずかな時間なんで、

 結局、子どものことを理解するのが難しいってことなんですよね。」

「うーん。

 じゃあ、大きくなればなるほど、親子の距離は離れていくってことですか?」

「距離が離れるっていう言い方がいいのかどうかですけど…、

 ほんとはよくわからない面や部分が増えているはずなのに、

 まあ、これも言葉が悪いですが、親は知ったかぶって、

 子どものことをわかってるつもりになってる、と言うか…。」

「たぶんこうだろう、とか、こうに違いないって思ったりとか、

 要は、高を括ってるっていうことですか?」

「ええ。

 まあ、車の運転でいう、だろう運転と言うんですかね。

 子どものことを、自分の都合の良いように解釈したり、決めつけたり…。

 そんなこと、ありませんかねぇ?」

「うーん。

 確かに、そう言われてみると、なきにしもあらずって言うか…。」

「たぶん、親なら誰でも、大なり小なり思い当たる節があるかと、ね。」

「そうなんですかねぇ?」

「ええ、そうだと思いますよ。

 つまり、親は子どものことを、見てるようで見ていない。

 わかってるようでわかっていない、という感じですかね。」

「はあ。」

「でも、これを子どもから見たら、子どもはどう思うと思います?」

「うーん。

 親は、自分のことを理解してくれてないと、思うんでしょうねぇ…。

 それが、反抗期になる理由なんですか?」

「まあ、それもあるでしょうけど…、事はもっと複雑かと。」

「え?

 複雑って、どういうことですか?」

 

(つづく)

 

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