創作読物 20「学校ってのは乗り越えられない壁」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「今、子どもから見たら、子どもはどう思うか、と聞きましたが、

 思春期になると、子どもは親とはまた違った、その子どもなりの

 視点とか視野とかが広がる時期に差し掛かるわけですよね。」

「それが、さっきおっしゃった、自我の確立ってことですか?」

「そうですね。

 そして、多くの子どもが、その大事な時期の大半を、

 学校という所で過ごすわけですよ。」

「そうですね。」

「その中で、子どもたちは、友達とくっついたり、離れたり…、

 傷つけたり、傷つけられたり、といったことを繰り返しながら、

 少しずつ、大人に近づいていくんでしょうけど…。」

「陽香は、そうやって、友達に傷つけられて…、

 それが原因で不登校になってしまったんですよねぇ…。」

「ええ、まあ、それも原因の一つかもしれないですけど、

 ほんとにそれだけが原因なのかは、陽香さんに聞いてみないと

 わからないことなんでね、それは。」

「え?

 他にも何か原因があるってことなんですか?」

「可能性としては、ゼロではないと思いますよ。」

「え?

 他の原因て、何なんでしょう?」

「ええ。

 今言ったように、ほんとのところは陽香さんに聞いてみないと

 わからないのでね…。

 ですから、これからお話することは、あくまでも一般論として

 聞いてほしいんですけど…。」

「一般論、とおっしゃると?」

「ええ。

 つまり、もしかしたら、そういうことも関係してるんじゃないか、

 関係してるかもしれない、というレベルの話で…。

 まあ、一般的な可能性の話というか・・・。

 なので、あくまでも参考意見ということで、聞いていただければと。」

「あ、はい…。

 わかりました。お願いします。」

「うん。

 つまり、学校って、友達だけじゃないですよね。

 子どもたちが接する人や物事って。」

「それって、接する人は先生たちってことですか?」

「ええ、そうですね。」

「じゃあ、物事って何ですか?」

「ええ。

 一番わかりやすいのを1つ挙げるとすれば、ずばり、校則ですよ。」

「校則?」

「はい、校則です。

 中学校に入ると、途端に厳しくなるでしょ、校則が。」

「ええ、まあ、小学校は緩いというか、校則なんてあるのかないのか、

 ですからねぇ。」

「ええ、そうですね。

 さっき、ご覧いただいたグラフですけど、

 子どもたちの心の成長度合いが、14歳から24歳にかけて、

 ちょっと鈍るってのはね…。」

「ええ。」

「これ、私の考えでは、その原因は親子関係のもつれだけでなく、

 教師の存在や学校そのものが、大いに関係してるんじゃないのかなと。」

「え?

 そうなんですか?」

「さっき言ったように、親は学校での子どもの様子って、

 わかんないんですよね。

 学校でどんな体験や経験をしてるのかってことが。」

「ええ。まあそうですね。」

「思春期、そして反抗期を迎えた子どもたちは、仮に相手が親であれば、

 親に反抗することによって、一時的に関係が崩れたとしても、

 結果的には親を乗り越え、結局はそれが成長に繋がるんですよね。」

「なるほど。」

「でも、相手が学校とか教師ではね、なかなかそうは行かないでしょう?」

「そうなんですか?」

「うん…。

 だって、もしですよ、もし陽香さんが、教師に反抗したり、

 校則違反をしたら、どうなりますか?」

「それはやっぱり叱られますよね。」

「ですよね。

 まあ、今これ仮の話なんで、陽香さんの名前を出してしまいましたが、

 もっと一般論で話さなきゃいけませんね、すみません。」

「あ、いえ。」

「じゃあね、こうしましょう。

 ある子どもが、あることで教師に反抗して、叱られた。

 あるいは、その子が校則違反を犯して、親も呼ばれて叱られた。

 でも、その親御さんにしてみると、どうもうちの子が悪いとは

 思えない。

 こういうことって、よくあることだと思いませんか?

 別にその親御さんが、変な人ってわけではなくてね。」

「ええ。」

「そういう時、その親御さんは、果たして学校にそれを言えるでしょうか?

 あるいは、仮に言ったとしても、どうなるでしょうかね?そのあと。」

「たぶん、学校の考えに従うしかないでしょうねぇ。」

「おそらく、結局はそうなるでしょうね。

 つまり、子どもや親にとって…、

 いや、特に子どもにとっては、学校ってのは乗り越えられない壁みたいな

 ものであって、それは親子の間でのそれとは、比べ物にならない壁、

 ってことなんですよね、たぶん。」

「そうなんですか?

 そんなふうに言われたことは初めてなので…、

 何て言ったらいいのか…、よくわかりませんけど…。

 でも、学校や先生って、子どもを育てるのが仕事なんですよね?

 て、なんか当たり前のことを聞いてるようですが…。」

「そうですね、それは当たり前のことですよね。

 でも、その当たり前のことが、本当に行われているのかっていうとね。

 ちょっと怪しい、というか…。

 どう思われます?」

「え?どうなんでしょう。」

 

(つづく)

 

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