創作読物 34「聞かなければ本当の愚か者」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「はい、これね。」
「あ、これです、これこれ。
ちょっと読み上げてみますね…。
- 他人の発言をさえぎらない
- 話すときは、だらだらとしゃべらない
- 話すときに、怒ったり泣いたりしない
- わからないことがあったら、すぐに質問する
- 話を聞くときは、話している人の目を見る
- 話を聞くときは、他のことをしない
- 最後まで、きちんと話を聞く
- 議論が台無しになるようなことを言わない
- どのような意見であっても、間違いと決めつけない
- 議論が終わったら、議論の内容の話はしない・・・。
なんか、いいですねぇ。」
「すごいよね。
これが、小学5年生が自分たちで作ったルールだって言うんだから。
どこぞの国の国会議員にでも、見せたいよね(笑)。」
「ほんと、そうですよねぇ…。
でもこれ、日本だったら、学級担任が勝手に決めて、
黒板の横に貼ったりしてねえ…。」
「そうだね。
なんでも人が決めたものを、人に押し付けても、意味ないというか…。」
「やはり、当事者意識って言うんですか?
自分たちで決めたものなら、やはり、自分たちが守るでしょうからねぇ。」
「でも、内容が高度と言うか…、
とても10歳そこそこの子どもたちが作ったものとは思えないよね。」
「ほんとにそうですねぇ。」
「平井さんは、この中でどれが一番気に入ったというか、感心した?」
「僕ですか?
そうですねぇ…、やはり4番目かな。」
「わからないことがあったら、すぐに質問する、ね。
なるほど。」
「これって、やはり、ミクシィ?に通じるわけですよね?」
「日本でも、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥なんて言うけど、
今の子どもたちにとっては、もうこれは死語と言うか…、
とにかくシャイと言うと聞こえはいいけど、
わからないことを素直に聞く子って、少なくなったというか…、
知ったかぶりする子は多くなった気がするけどねぇ(笑)。」
「でも、なんでなんでしょうかねぇ?
聞いたり、質したりって、しなくなったのは…。
実は…、私も、そういうところ、ちょっとあるのかもしれないですけど…。」
「うーん。
まあ、単純に言えば…、
その場さえ、やり過ごせればいい、っていうことなのかもね。」
「その場さえ、やり過ごせればいい…。
なるほど…。確かに私もそういうところありますねぇ。
だけど、と言うか…、だからそれは、一生の恥になっちゃうんですね。」
「うん。
あと…、
これ、今考えたんだけど…、
この恥っていう言葉を使ってるのも、良くないのかもねぇ…。」
「え?どういうことですか?」
「うん。
ほら、恥の文化ってあるでしょ?」
「え?」
「あ、そうか、もしかして、知らない?平井さん。」
「ああ、ええ…、勉強不足で…、すいません。」
「いや、まあ、それはいいんだけど…、
でもそういう時、どうするんだっけ(笑)?」
「あ、そうですね…。
恥の文化って何ですか?教えてください!
ですね(笑)。」
「そうそう。
なんて、偉そうにね(笑)。
あのね、ルース・ベネディクトと言う人が、日本人の研究をした本の中で、
欧米では内面の良心を重視する、これを罪の文化と言ったのに対し、
日本は世間体や外聞といった他人の視線を気にする。
これを恥の文化って命名したわけ。
菊と刀っていう、もう50年以上も前の古い本だけどね。」
「ああ、なるほど。すごいですね!」
「でね…、
このことわざで、恥っていう言葉を使ってるのが、良くないのかもねぇ。」
「それって、どういうことですか?」
「うん。
つまりね、この、世間体や外聞といった他人の視線を気にする、っ
ていうのもね…、
何て言うか…、出しゃばらないとか、慎み深いとか…、
日本人の美徳みたいに言われることもあるのかもしれないけど…、
これが高じて、聞くは一時の恥っていう時に、
今はその一時の恥さえ受け入れたり、受け止めたりできないって言うか…。」
「なるほど。
つまり、どんなことでも恥ずかしいことはできないって言うか…、
恥というのを自分の都合の良いように使っちゃって、
結局、誤魔化しちゃってるってことですかね?
でも、そのほうが結果的には大きな恥をかくことになるんだけど…。」
「うん。
まあ、誤魔化してるとは、もちろん本人は意識してないんだろうけど…。」
「結局、ええかっこしいとか、カッコつけしいが増えたってことですかね?」
「因みに、今、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥を、
英語で何て言うんだろうって、調べたら…、
Asking makes one appear foolish, but not asking makes one foolish indeed.
聞くと愚か者に見えるが、聞かなければ本当の愚か者になる、って言うんだね。
恥と言う言葉は使ってないね。」
「なるほど。
愚か者っていうほうが、インパクトありますね(笑)。」
「あ、Ask much, know much.っていう言い方もあるんだね。
大いに聞いて、大いに知れ!だって。
このほうがシンプルでいいかもね。
恥だとかなんだとか、変に内面に触れてないからね(笑)。」
「Ask much, know much.っていいですね!
これから使わせてもらいます(笑)。
いやあ、今日は先生を訪ねて来て、ほんと良かったです。
いろいろと勉強させていただきました。」
「そう?
なら良かったけど…。
でもさ…、平井さん、ほんとは何しに来たの?ここに。
なんか、ほかに用があったんじゃない?」
「えっ?」
「だって、フィンランドの教育のこと知りたくて、なんて、
ちょっと不自然でしょ(笑)?」
「あ、ああ。
まあ、そうですね…。
わかっちゃいましたか?」
「まあ、ね(笑)。
で、やっぱり、陽香さんのことかな?」
「あ、ええ、まあ…。
それもあるんですが…。」
「それも?」
「ええ、まあ。」
「平井さん、それこそAsk much, know much!でしょ(笑)。」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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