創作読物 40「担任の影が全然見えない」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「うん、いいけど…。
ただ、その前にね…、
ここまでの話聞いて、平井さんはどう思った?」
「え?
何をですか?」
「うん。
当時、M君は中3で、
不登校ではあったけど、ちゃんと学校に在籍してたわけでしょ?」
「ええ。」
「なのに、友達の話を聞く限りでは、
全然、見えないんだよね、学校や担任の関与が…。」
「あぁ、なるほどー。」
「まあ、もう今から40年以上も前のことだからね。
当時と今とじゃ、不登校生に対する関わり方も、
全然違ってはいるのかもしれないけど…。
それにしてもねぇ…。」
「M君は、担任との関係はどうだったんですかねぇ?」
「平井さんは、やはりそこが気になる?」
「え?
あ、いや、まあ、そうですねぇ…。」
「友達との話の中では…、
M君からは学校のことは一切出てなかったらしいんだ。
学校が嫌だとか、担任と合わないとか…ね。
友達とのことも含めてね。」
「ということは、不登校の原因は、もっぱら親との関係、ということですねぇ?」
「まあ、そうなんだろうけどね…。
ただ、それにしても、担任の影が全然見えないんだよね。
家庭訪問も、一度も来てないみたいだし…。」
「え?
それはいくらなんでも、ひどくないですか?
当時って、そんな感じだったんですか?」
「うーん。
まあ、地域性もあるのかもね。都会と違って…。
それにまあ、当時は、不登校生やその親に対して、
学校も担任も、どうしていいか、わからないというか…。
為す術がなかったのかもね。」
「でも、先生のお友達のように、親身になって面倒見る人もいたわけだし…。
ちょっと対応が悪すぎませんか?その学校というか、担任というか…。」
「まあ、当時だって、熱心な教師も居たんだろうけど…、
逆に、不登校は悪、ということで、ろくなケアもしない場合もあったのかもね。」
「学校が絶対、ということですか?」
「まあ、そういう考えは根強くあるからね、今でも。」
「うーん。」
「でね、平井さん。」
「あ、はい。」
「さっき、漢字のクイズやったでしょ?
反対語とか、同義語とかの。あれ、覚えてる?」
「あ、ええ。
ちょっと待ってください。
さっき、ちゃんとメモしたので…。
えっと、強制、自由、束縛、窮屈、任意、放任、それに矯正ってやつですね?」
「あ、そうそう。
でね、M君の場合に当てはめると…。
M君の学校や担任の対応って、どうなる?」
「そうですね…、
自由、と言うか、やっぱり放任ですかね?」
「うん、そうだろうね。放任ね。
でも、だとすると、不登校生に対して、放任て、どうなんだろうね。」
「放任は、ほったらかして勝手にさせるということだから…、
やはり、それでは駄目なんでしょうね。」
「じゃあ、M君の場合、強制が言いわけ?」
「いやあ、それじゃあ、問題解決にはならないし…、
かえって、こじれちゃうというか…。」
「だろうね。
ということは…、
やはり、極端は駄目、ってことは言えるよね?」
「そうですねぇ。」
「まあ、M君のケースを参考にして、
平井さんなりの陽香さんへの対応を考えるヒントにしてくれれば…ね。」
「ええ、今、僕もそれ、考えてたんですけど…。
久保田さんのような、強制というか、干渉しすぎるのも良くないし…、
でも、僕のような…、
いや、今の僕の対応は、中途半端って言うか…、
でも、どちらかというと…、放任に近いんじゃないかと…。」
「そう思えて来た?」
「ええ、そうですね。」
「となると、よろしくないと…?」
「そうですねぇ…。
このままじゃいけないってことは、わかりました、というか…、
でも、どうしたらいいのかってことは…、
正直、まだ、よくわからないです。」
「そっかぁ…。
まあ、そうだろね。そんな簡単じゃないよね。」
「でも、何かしなきゃいけない…、
いけないんですよね?」
「そうだね。
担任として、できることはあるよね、きっと。
で、さっき、ほら、M君のことでは、まだ後日談があるって言ったでしょ?」
「ええ、ええ。」
「その話をしようか?」
「あ、ええ、お願いします。」
「M君ね、
結局、中学卒業まで、ほとんど登校はしなかったみたいで…、
で、結局、高校には入ったんだけどね…。」
「でも、高校には行ったんですね。」
「うん、そうらしい。
まあ、父親曰く、世間体の悪い高校にね(笑)。」
「ひどい言い方ですねぇ。」
「まあね。
ところが、家庭内での環境が変わったわけではないので…、
まあ、高校もなかなか行かなくなって…。」
「で、どうなったんですか?
もしかして…、退学とか…、ですか?」
「そう。
中学までと違って、
高校は、やはり単位というか、
ちゃんと成績とらないと、厳しいでしょ。
上の学年に上がれないとか…。」
「そうですねぇ。」
「なので、M君は、高校1年の年末に自主退学しちゃったらしい。」
「そうですかぁ。
で、そのあとは?」
「うん。
しばらくは、プラプラしてたらしいけど…、
そのうちに、東京にある土建屋さんに勤めたみたいなんだけどね…。」
「じゃあ、中卒で就職したってことですか?」
「そうだね。」
「でも、親元を離れてってことだから、
M君としては、良かったんじゃないですか?」
「うん。
まあ、そのまま順調に行けばね。」
「え?
また、何かあったんですか?」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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