創作読物49「それって、デマだったんですか?」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「あれは、私が中学3年生の時だったと思うから…、
あ、ちょうど陽香さんの年齢の頃だね。
オイルショックってのがあってね。」
「オイルショックですか?」
「そう。
聞いたことある?」
「うーん。」
「そうか。
当時、中東で戦争が起こったのがきっかけで…、
OPECって、わかるかな?
石油輸出国機構って言うんだけど、
イランとか、イラクとか、サウジアラビアとかね、
そのOPECが、原油の価格をそれまでの7割増しで売るって言いだして…。」
「すごい値上げですね。」
「うん。
で、当時の日本の政府が、
紙の節約を呼び掛けたのが、デマを呼ぶ原因になったんだけど…。
あるスーパーマーケットがね、店の広告チラシで、
紙がなくなる!って書いて配ったら、お客が店に殺到して、
あっという間に、トイレットペーパーが売り切れちゃってね。」
「すごいですねぇ。」
「で、マスコミがそれを取り上げたら、
たちまち日本中がパニックみたいになって、
ありとあらゆる店から、トイレットペーパーが消えちゃったわけ。」
「えー。
トイレットペーパーがなくなったら、ヤバいですね。」
「うん、みんなそう思って、買い占めた結果なんだけど…。
当然、値段もバカ高くなるでしょ?」
「でも、それって、デマだったんですか?」
「結局は、時間が解決したというか…、
騒動は治まったわけだから、デマだったということだよね。
でも、政府が、紙の節約を呼び掛けただけでも、
国民というか、民衆は、過剰に反応しちゃうっていうことなんだよね。」
「やっぱ、国が何か言えば、信じちゃいますよね。」
「そういう人が多いよね。
何て言うか…、情報に振り回されちゃうというか…。
でも、そういう時に、情報が正しいかどうか、
情報に振り回されないようにするためには、
陽香さんだったら、どうしたらいいと思う?」
「うーん。」
「難しいよね。
まして、周りのみんなが、同じ意見や考えで、
同じような行動をとったりしたら…、
自分もそうしなきゃ、って思っちゃうもんねぇ。」
「そうですね。
たぶん、私も買いに行っちゃうかな。」
「うん。
で、デマ騒ぎで、もっと面白いって言うか…、
怖い話があってね。」
「え?
何ですか?」
「うん。
そのオイルショックのちょうど100年前なんだけど…、
あ、これはまだ、陽香さんは日本史ではやってないか。
中学校では、やらないもんね。」
「え?
高校の教科書に載ってるんですか?」
「うん、たぶんね。
血税一揆って言うんだけどね。」
「血税?一揆?」
「そう。
当時は、明治政府ができて間もない頃で、
今の日本にはないけど、徴兵令ってのが敷かれたわけ。」
「軍隊に入る、あの兵役ってやつですか?」
「そうそう。
でね、そのお触れ、つまり、これから徴兵制にするぞ、
っていう政府が出した文書の中に、
生血をもって国に報する、という、ちょっと生臭い表現があったんだ。」
「生血、ですか?」
「うん、生血。
でね、この表現で、一部の農民がね、
え?国に血を採られるのか?って誤解して…。」
「え?マジですか?」
「そう、マジに(笑)。
で、それがきっかけで、主に西日本なんだけど、
ずいぶんと激しい一揆が連鎖反応的に起こったんだよね。」
「なんか、一揆って、江戸時代のことかと思ってたけど…。」
「たとえば…、
制服を来た小学校の教員が、血を採る人と間違えられて襲われたとか、
今、考えれば、馬鹿げた話かもしれないけど…、
当時、一揆に参加した人たちにしてみれば、真剣だったんだろうね。」
「なんか、でも、ちょっと考えれば、
わかりそうな感じですけどねぇ、血が採られるわけないと…。」
「まあ、そうなんだけど…。
その、ちょっと考えられるか、られないかってのが、分かれ目でね。」
「ええ。」
「陽香さんは…、
その分かれ目って、何だと思う?」
「分かれ目…、ですか?
結局、一揆に参加した人も、
さっきのトイレットペーパーを買い占めた人たちも、
1つの情報に振り回されちゃったというか…、
それしか、信じないというか…。」
「そうだね。
結局、物事を多角的に見られないというか…、
1つの方向からしか見ないというか…。
で、判断が偏っちゃうってことなんだろうね。」
「そうだと思います。」
「そういうの、
メディア・リテラシーとか、情報リテラシーって言うんだけど…。」
「メディア・リテラシー?」
「うん。
リテラシーって、
正しく解釈したり、理解する力ってことね。
だから、メディア・リテラシーってのは、
インターネットとか、新聞やテレビなどの情報を見極めて、
理解したり、活用したりする力のことなんだけど…。」
「ふーん。
なんか、先生と話してると、
学校の授業受けてるみたいですね(笑)。」
「え?
あ、そっかぁ。
教師づらはなかなか抜けないか(笑)。」
「教師づら?」
「あ、いやいや、なんでもない。
でもこういう話、つまんない?」
「あ、いえいえ。
すいません。とっても、面白いです(笑)。
もっと、いろいろ教えてください(笑)。」
「あ、そう。
なら、いいんだけど(笑)。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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