創作読物65「明日は我が身」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「今、全国の学校で、
それこそ毎日のように、事故・不祥事のニュースが絶えないでしょ?」
「そうですね。
大袈裟でなく、多いですね。」
「その事故・不祥事の内容って、
教師によるセクハラとか、体罰とか、盗撮、いじめ、差別とか…、
まあ、オンパレードだよね。」
「ええ。」
「平井さん、
私は、そういう行為の根っ子には、
ズバリ、教師の人権感覚の欠如があると思うんだよね。」
「人権感覚ですかぁ。」
「うん。
でね、大学の教職課程では、
そういう人権とか、人権感覚を磨くための授業とか、
トレーニングって、ほとんどなされていないんだよね。」
「そう言われれば、
僕も大学で、その類の授業とか、講義を受けた記憶はないですねぇ。」
「もちろん、
折に触れて、と言うか、
単発ではあると思うんだけど、
如何せん、扱いが薄いと言うか、
なんか、アリバイ的にちょっとだけやってるふうなところがあるよね。」
「確かに。」
「でね、
平井さんも受けたと思うけど、
今は、教職実践演習っていう科目があるでしょ?」
「ええ。
大学4年の後期に受ける、
教職課程の総まとめみたいな授業ですね。」
「そうそう。
で、平井さんは、その授業でも、人権については?」
「うーん。
ちゃんと受けたという記憶はないですね。」
「そっかぁ。
いや、私は大学でその科目も担当してたんだけど…、
やっぱり、これから教育現場に出て行く学生たちに、
これだけはしっかり伝えておきたいと思って、
一コマだけだったけど、人権問題をとりあげてたんだよ。」
「そうですか。
どんな内容か、興味ありますね。」
「うん。
かいつまんで言うとね…、
まず、直近で起こった教員の不祥事の内容を示すわけ。」
「どんな不祥事をですか?」
「うん。
なんでもいいんだけど…、
例えば、最近なら…、
全身不随で、車いすを利用する特別支援学校の生徒を殴って、
懲戒処分を受けた34歳の教師がいたでしょ。」
「あ、ええ。
なんか、トイレで生徒の手が複数回、その教師に当たって、
それで、腹を立てて暴行したっていうやつですね。」
「そうそう。
暴言吐いて、肩を殴ったり、胸ぐらをつかんで体を揺すったりして、
生徒は頭をぶつけ、2針縫うけがをしたっていうやつね。
おまけに、その教師は、生徒の保護者からの問い合わせに嘘をついて、
暴行を隠し、上司にも虚偽の報告をした、とも報じられてたね。」
「え?
そうなんですか。そこまでは見てなかったです。」
「うん。
例えば、こういう生々しいニュースを学生に見せるんだよ。」
「ええ。」
「その上で、おもむろに聞くわけ。
これ読んだ皆さんは、自分は教師になったら、絶対こんなことはしない、
って思うでしょ?って。」
「学生たちは、まあ、頷きますよね?」
「うん、そうだね。
でも、そのあとに、更に聞くんだよ。
でも、この教師だって、皆さんと同じように、
15年前は、大学でこうして教職課程の授業を受けてたわけで、
その時に、この人は、自分が将来こんな事件を起こすなんて、
思ったと思う?って。」
「ほう、なるほどぉ。
学生たちは、その時、どんな反応するんですか?」
「みんな、ハッとした顔して、首を横に振るよね、たいがい。」
「でしょうねぇ。」
「だから皆さんだって、明日は我が身じゃないのか?って言うと、
みんな、ギクッて顔してね…。
で、さらに投げ掛けるわけ。
学生時代には、そんなことしないって思ってたこの教師が、
じゃあ、一体なんでこんな不祥事を起こしちゃうんだと思う?って。」
「それは、すごい投げ掛けですね。」
「うん。
だって、その原因がわからなければ、
ほんとに、明日は我が身になっちゃうし…、
で、原因がわかれば、対策も立てやすいからね。」
「なるほど。
原因がわかれば、対策も立てやすい。
これも、メモっときます。」
「それから、学生たちに、ある動画を見せるんだけど、
その前に、ちょっと解説すんだよ。」
「ええ。」
「この動画には、様々な親子が登場して、スクリーンに向かって座るが、
その親と子は、ついたてがあるので、お互いの顔や様子は見えない。
そして、二人の前のスクリーンに、次々一人ずつ人が現れるんだけど、
その人たちが、みんな変顔をするので、
親子は、その変顔の真似をするように、言われている。
で、順次、現れてくる人の変顔を、親子ともども真似し始めるんだけど、
ある人が、映って変顔すると、子どもは、どの子も真似するんだけど、
親は、どの親も、その人の時には、フリーズしちゃって真似をしないんだよ。
じゃあ、一体、どの場面でフリーズしちゃうのか?って、
前振りしておいてから、動画を流すんだ。」
「なるほど。
今、僕もその動画見られますか?」
「ああ、これだよ。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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