創作読物84「それって、自己愛ってことですか?」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「ええ…。
なんか、ちょっとショックですねぇ…。」
「そう?」
「まあ、そうですね。
やっぱりショックですね。
今まで、そんなふうに考えたことなかったんで…。」
「ちょっと、
歯に衣着せぬ言い方で申し訳なかったけど…。」
「あ、いや…。
僕自身のことという、ちっちゃなことだけでなくて…、
先生がおっしゃった、何を守るかで、その人の人間性がわかる、ってのは、
凄い名言だなぁ、と思ったんで…。」
「うん。
まあ、恋愛はだれでも経験があるから、
こういう話題の例えとしては、わかりやすいと思うんだけど、
つまり、Aという人がBという人を好きになる。
でも、AのBへの思いよりも、AのA自身への思いのほうが、
大きいってことは、ほんとは、よくあるんじゃないのかなって、ね。」
「つまり…、
それって、自己愛ってことですか?」
「自己愛ね…。
そうだね、そう表現してもいいかもね。
つまり、そのう…、例えば男性だったら、
彼女を失うことで、自分自身が傷つきたくないから、
彼女を大事にする、って言うか…。」
「なるほどぉ。
それで今、思い出したのは…、
学生の時に、いつも彼女をとっかえひっかえしてる奴がいて…、
僕らの仲間内では、そいつに対して、薄っぺらい奴だっていう陰口してて…。」
「あっそう。
羨ましいという気持ちの裏返しでなくて?(笑)。」
「違いますよぉ…。
ただ、そいつがいつも言ってたのは、
失恋の痛手を癒すのは、新しい彼女をつくることだ、って…。
なんか、嫌いなそいつが言うから、
余計、そういうことには反発というか…、
人をバカにしてると、軽蔑してたんですけど…。
でも、今の話を聞くと、
人って、やはり、そういうところがあるんですかねぇ…。」
「そうだねぇ…。
目の前の彼女を大切にするのも、
その彼女と別れた痛手を、別の彼女で穴埋めするのも、
自己愛ってことでは、通じるものがあるのかもね。」
「なんか、
認めたくないですけど…、
僕の中にも、そういった面はあるような気もしますね…。」
「まあ、愛にもいろいろあるからねぇ…(笑)。」
「ですねぇ…。」
「平井さんは、4つの愛って知ってる?」
「いえ、知りません。
なんですかそれ?」
「古代ギリシャでの話だけど、
愛には4種類あるってね。
つまり、エロスとアガペーと、
あと、なんだっけな…、
あ、そうだ、フィリアとストルゲーだ。」
「なんですかそれ?
聞いたことない単語ですねぇ…。」
「でも、エロスはわかるでしょ?」
「ええ、なんとなく…。」
「ほんとかな?
なんか、いやらしいこと考えてんじゃないの?(笑)。」
「え?
エロスって、そういうことじゃないんですか?」
「エロスはね、
本来は、本能的な愛、肉体的な愛で、
まあ、主に男女関係における愛のことだね。
今みたいに、必ずしもいやらしいことを指すわけじゃなかったんだよ。」
「へー、そうなんですか…。」
「これがなければ、恋愛なんて成立しないわけだよね。」
「成立ですか?(笑)。
表現が面白いですね?」
「そう?
で、そのエロスの対極にあるのが、アガペーね。
つまり、無償の愛ってやつ。」
「なるほどぉ…。
で、あとの2つはどういう愛なんですか?」
「うん。
フィリアは、友人の間の友愛のことで、
ストルゲーは、親子や兄弟間、つまり家族愛ってことね。
この2つは、ほとんど聞かないよね。」
「そうですね…。
そうすると、
今言った、いけ好かない奴は、
エロスばかり求めて、決してアガペーではなかった、ということですね(笑)。」
「まあ、
そうはっきり言ったら、身も蓋もないけど…。」
「あ、そっかぁ。
それって、本ぺスタ、偽ぺスタにも通じるってことなんですね?
つまり、本ぺスタはアガペーの愛で生徒に接してると…。」
「うん。
ただ、まあ、無償の愛ってのが、ほんとに存在するのかとは思うけどね。
特に、この我々が暮らす、いわゆる世間ていうところではね…。」
「うーん。
難しいですねぇ。」
「だから、偽ぺスタは、生徒のためにと、
いろいろともっともらしいことを言ったり、やったりするけど、
実はそれは、本心からではなく、まさしくおためごかしであって、
要は、アガペーでなく、自己愛なんだ。って、
まあ、簡単に片づけちゃうことも、できるかもしれないけど、
そう単純なものでもないような気もして…。
ああ、でも、なんか、自分で言い出しといて、
何言ってるか、わかんなくなってきちゃったよ…。
疲れてるのかな(笑)。」
「あ、いや、
おっしゃりたいことは、なんとなくわかりますよ…。
つまり、人には、4つの愛が混在してるってことですよね。
場面場面で、それが入れ替わるというか…。」
「うーん。
ま、そういうことにしておきますか(笑)。」
「でも、帰り際に、
難しい話題を振られちゃいましたね。
今夜はちょっと寝つきが悪くなりそうです(笑)。」
「そっか。
それは、ごめんごめん。」
「じゃ、これで失礼します。
いろいろとありがとうございました。
おやすみなさい。」
「はい、お疲れ様。
気を付けて帰ってね。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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