創作読物58「頭は使わないよりは、使ったほうがいい」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「あぁ、もう、こんな時間なんだね。

 今日はいろいろと長っ話しちゃったね(笑)。」

「ええ、そうですね。

 でも、ほんと、あっという間でした(笑)。」

「でも、今日はこのへんにしておこうかな?」

「そうですね。

 お時間とっていただいて、ほんとにありがとうございました。」

「で、次はどうする?」

「え?

 ああ、来週もお願いしていいですか?」

「うん、もちろん。

 同じ曜日の同じ時間帯でいいかな?」

「あ、はい。

 よろしくお願いします。」

「それだと、来週もまた、中川のおばあちゃんに会えるしね(笑)。」

「あ、そうですか?

 それも、楽しみです。」

「で、どう?

 今は頭痛する?」

「あ、いやぁ…、大丈夫です。

 でも、今日は、なんか久しぶりに頭をフルに使った感じで、

 ちょっと疲れちゃいました(笑)。」

「ははは。

 そっかぁ。

 まあ、頭は使わないよりは、使ったほうがいいよ(笑)。」

「そうですね。

 でも、なんか、心地よいというか…、

 ちょっと嬉しい感じがします。」

「え?

 ちょっとだけ?」

「あっ、

 いえいえ、

 とっても…、です(笑)。」

「ほんと(笑)?」

「はい、とっても(笑)。」

「なら良かった(笑)。」

「ええ。

 随分と刺激的…、というか、

 考えさせられるお話が多かったんで…。

 まだ、消化不良な部分がたくさんあるんですけど…。」

「消化不良か…。

 陽香さんは…、

 胃袋は一つだよねぇ?」

「え?

 急にまた、何ですか…?」

「うん(笑)。

 人間は、胃は一つだけど、

 動物によっては、胃がたくさんあるでしょ?」

「ええ?」

「知ってる?

 胃がたくさんある動物って?」

「あ、あぁ。

 あの…、牛とかですか…?」

「そうそう。

 牛とか、羊とか山羊とか…、ね。

 いわゆる反芻動物ってやつね。

 牛なんか、胃袋が四つあるんだよね。」

「四つもですか?

 多いですねぇ(笑)。」

「うん。

 でね、

 一回食べたものを、胃袋に収めてから、

 もう一回、口に戻してモグモグしてね。

 これを何度も繰り返すわけだよね。」

「なので、反芻するんですね。」

「うん。

 で、反芻って、人間の場合には、くりかえし考えて、味わうことなんだけど、

 別の言い方すると、咀嚼だよね。」

「あぁ、なるほど。

 反芻と咀嚼って、そう言われてみれば、似てますね。」

「でしょ?

 どっちも、よく考えて味わうって意味なんだけど…、

 だから、陽香さんも、そうしてくれれば、と思ってね。」

「あ、はい。

 牛みたいに、モグモグするんですね(笑)?」

「ははは。

 でも、もっとカッコいい言い方があるんだよ。」

「え?

 何て言うんですか?」

「はい、そこでまたまた問題です(笑)。

 反芻とか、咀嚼って意味の英単語は何でしょう?」

「えー。

 また英語ですか(笑)?

 先生は国語の先生じゃなかったんですか?」

「うん、そうなんだけど…(笑)。

 さて、わかるかな?」

「うーん。

 わかりませーん(笑)。」

「正解は、フィードバックだよ。」

「あ、フィードバック。

 あぁ、そっかぁ。なるほどですね(笑)。」

「フィードバックって、

 英語で書くと、feedbackで、

 feedって、飼料とか、エサね。

 それを、backするから。」

「それで、フィードバックは反芻、咀嚼なんですね。

 なんか、面白いですね。」

「だから、陽香さんも、じゃんじゃんフィードバックしてね。」

「あ、はい。

 モグモグより、カッコいいですね。フィードバックって(笑)。

 でも、先生。

 ちょっと聞きにくいんですけど…。」

「何?」

「先生は、私の不登校のこと、

 話題にしませんでしたよねぇ?」

「あぁ…、そうだね。」

「どうしてですか?」

「話題にしてほしかったの?」

「え?

 いえ…、別にそういうことでは…。

 でも、何か…、聞かれるのかな、とは思ってました。」

「話したければ、陽香さんのほうから、話すでしょ、

 と思ってね。」

「あ、そうなんですね。」

「うん。

 でも、別れ際に、その話題を出すってことは…、

 陽香さんも、聞いてほしかったのかな?」

「あぁ。

 なんか、先生といろいろとお話してるうちに…、

 そんな気になって来たというか…。」

「そっか。

 じゃあ、また来週にでも話そっか(笑)?

 陽香さんの気が向いたら。」

「あ、そうですね。

 その時の…、気分で、ということでいいんですか?」

「ノープロブレム(笑)。」

「あ、はい。

 ありがとうございます。」

「うん。

 じゃ、また来週ね。

 気を付けて帰ってね。

 あ、お母さんにもよろしくね。」

「あ、はい。

 わかりました。

 じゃあ、ありがとうございました。

 さようなら。」

「はい、さよなら。」

 

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